2004年台風情報


最終更新 : 2005年1月

2004年多くの台風が日本列島を襲い各地に甚大な災害をもたらしました。
被災された方には一刻も早く癒され平常に戻りますように。

2004(平成16)年中に発生した台風は29個(日本では現在は台風の名前はその年の1月1日から発生順に番号をつけて呼びますので2004年は台風29号まで発生しました。気象関係者では0429号-2004年の第29号-のように通番で呼ぶようです。海外では番号よりも名前のリストがあり、ハリケーンはそのリストに基づき命名するのが一般的です。2000年以降には台風にもアジア名がつけられるようになりました。2004年10月に日本に上陸した台風23号は別名「とかげ(Tokage)」、日本の台風風委員会から提出され採用された名前で星座の「トカゲ座」に由来しています。12月19日2004年最後に発生した台風29号は「ノルー(Noru)」で韓国から提出され「のろしか」の意味だそうです。)で平年値は通常約26個です。日本上陸数の平年値も年間では2.6個で、これまでは1990年と1993年が最多で6個でした。10月20日の台風23号で10個もの台風が日本へ上陸しました。過去の記録でも10月半ば以降に台風が上陸しています。2004年の台風23号は10月20日に上陸し、最も遅く上陸した記録は1990年11月30日の台風28号で、次が1967年10月28日の台風34号ですから、3番目に遅い記録となりました。(平年値はすべて1971年〜2000年の30年間平均で気象庁発表値です。)
台風とは、また台風の発生
熱帯の海上で発生する低気圧を一般に「熱帯低気圧」と呼びます。台風とはこのうち北西太平洋上(東経180度より西)で発生し中心付近の最大風速がおよそ17.2m/秒(気象庁の風力階級表で風力8)以上になったもので、降水量や気圧による定義はありません。発生する地域によっては「ハリケーン」などとも呼ばれています。ちなみにハリケーンも台風と同じく熱帯低気圧が勢力を増したものですが、東経180度より東側の北部大西洋・北東太平洋・南東太平洋にあるものがハリケーンと呼ばれます。ハリケーンは最大風速が64ノット(1ノットとは1時間に1.582kmの速度で、日本では1時間に1海里の速度のことでした。ですから1ノットは0.51m/秒です。)つまり風速約33m/秒以上の熱帯低気圧です。これは「強い」台風に相当します。国際的な基準では英語のタイフーン(typhoon)も64ノット/秒以上の最大風速を持つものですから、日本の基準の「台風」とは異なります(台風は英訳ではtyphoonですので複雑です)。また日本の風速の測定は10分間平均で算出するのに対し国際的には1分間平均で算出します。最大風速が同じハリケーンと台風では台風の方が強いことになります。但し前述しましたように日本語の台風は弱い風速でも台風になります。
(注:気象庁風力階級表は別名ビューフォート風力階級表とも言われ、イギリス提督のビューフォートが帆船の帆の張り方によって海用の風速階級表を作ったのが始まりとされ、その後陸上や海上の状態も加筆され現在に至っています。もともと海用のため風速はノット表示なのです。複雑なことにアメリカでは風速はマイル毎時が用いられています。)
台風の目
台風は渦巻きの遠心力で周辺の雲が外側に広がり中心には雲のない部分ができます。また中心付近の上昇気流は一部が中心へ下降します。こうして台風の目ができます。空気の動きが激しいほど台風の目がはっきりと確認できるようになります。台風の目の中に入ると無風・快晴となる時もあり、他の気象条件や台風の位置を誤解するような錯覚を起こす時があります。
1954(昭和29)年9月26日台風15号により5隻の青函連絡船が暴風と高波で遭難し、特に洞爺丸では乗客・乗員1,155人が死亡する日本海難史上最悪の惨事となりました。台風15号は鹿児島県上陸後、日本海に入っても発達し時速80-100kmの猛スピードで北上し函館の北西海上で急に速度を落としました。台風としては異常な経過をたどったことや台風の目と判断した出航直前の晴れ間が実際には閉塞前線によるものであったことなどが、出航の判断を誤らせた原因とされています。台風15号は洞爺丸台風と命名されました。


フィリピンの東の海上で海水温度26-27度以上の海面上ではその上昇気流と風の衝突で、空気を含む水蒸気が上昇して冷えて雲になり、この冷える時に放出される熱がエネルギー源です。水が氷になる時に熱を出して周囲を暖めるのと同じ原理です。空気が暖まると上昇気流が活発になり気圧が低下し、新たな水蒸気の供給が加速されそれがまた空気を暖めさらに気圧が低下しこうして熱帯性低気圧は発達していきます。そして最大風速が17.2m以上になると台風という呼び名に変わります。台風が発達するのには海水温度が約28度以上あることが条件と言われています。気象庁の8月の平均海水温度は27度が関東近海まで広がり、しかも台風が通過する東シナ海は29度以上もありました。平均的な台風のエネルギは広島・長崎に投下された原子爆弾の10万個分に相当するとも言われています。
台風の経路は時期によって異なります。夏の台風が中国大陸に向かうのは日本の南に広がる太平洋高気圧から吹き出す風によって北上を妨げられるからです。ところが2004年は太平洋高気圧がいつもより北東に位置し、その結果太平洋高気圧の縁が南西諸島や九州付近にあたり、日本本土に向けて台風の通り道が開けた格好になりました。8月末から9月に日本列島に接近する台風の経路は、低緯度では西に進み地球の自転の影響を受けながら北へ進みます。北上するにつれ偏西風(強い西向の風)に流されて東に進みます。日本列島の西方に達すると太平洋高気圧の縁に沿って速度を上げ、放物線を描くように日本列島に接近します。この時秋雨前線に南からの湿った空気を吹き込み大雨をもたらします。10月以降は日本列島に上陸するほど北上する台風は少なくなってきますが、勢力の強い台風が接近・上陸することがあり2004年も10個目の台風は10月20日高知県土佐清水市に上陸した23号です。
台風の強さと大きさ、気圧は
台風の強さは10分間平均の最大風速です。強いと言うのは最大風速が33m/s以上44m/s未満で、非常に強いは44m/s以上54m/s未満で、猛烈は54m/s以上を言います。大型は風速15m/s以上の半径が500km-800km未満です。超大型は半径800km以上です。この数値を日本列島に当てはめるとほぼ半径500kmは東京を中心にして北は青森で西側は四国東端です。半径800kmになると北は北海道の半分で西は九州の東端まで達します。また風速は平均値ですから瞬間的には平均を1.5倍から3倍も上回る風が吹いている場合があります。瞬間的な風速のうち最も強い風速を最大瞬間風速といいます。これまでの最大瞬間風速の記録は1966(昭和41)年の第二宮古島台風が記録した85.3m/秒です。毎秒85.3mの風速は時速約307kmとなります。JR西日本の新幹線のぞみが国内営業車両の最速を記録していますが、その最高速度は時速300kmです。比較では笑われそうですが、瞬間的には新幹線のぞみの先頭車両以上の風が吹いたことになります。
もうひとつ台風の勢力の目安とされるが中心付近の最低気圧です。過去日本列島に上陸した台風で最も気圧が低かったのは、1934(昭和9)年9月21日に高知県室戸岬付近に上陸した室戸台風です。このとき室戸岬測候所では911.6hPaの最低気圧を記録しました。地表面では周囲の空気が台風の中心に向かって反時計周りにどんどん流れ込みます。気圧が低いほど空気が流れ込みやすくなり、流れ込む空気の風速も強くなります。そのため気圧の低さが風の強さの目安ともされます。流れ込んだ空気は巨大な渦巻きを作りながら中心付近では上昇気流となり積乱雲を作ります。海では気圧が下がることで海面が持ち上げられます。これを「吸い上げ効果」といいます。外洋では気圧が1hPa下がると海面が約1cm上昇するといわれています。地球表面の気圧は約1気圧すなわち1013hPaです。ここに室戸台風並みの910hPaの台風が来た場合、中心付近では約103cmの海面上昇が起きます。周辺でも気圧に応じた海面の上昇がみられます。これが台風による高潮の一因となっています。
台風上陸や猛暑の原因は勢力が強い太平洋高気圧
太平洋高気圧は亜熱帯にできる高気圧の一つです。亜熱帯は世界的に高気圧が出来やすい場所で気象衛星から見ると太平洋上に晴れた地域が広がっている様子がわかります。亜熱帯高気圧を作るのは「ハドレー循環」と呼ばれる恒常的な風の流れです。北半球で見るとハドレー循環の出発点は赤道のすぐ北側です。北東と南東から吹く二つの貿易風(ここは偏東風です)がぶつかり上昇気流ができます。この風が高度1万メートル付近で北に向かい、亜熱帯の北緯20-30度付近で高温で乾いた下降気流になります。これがハドレー循環です。太平洋高気圧の出発点はフィリピンの東の海上です。



海水温度が高くそれだけで湯気が立つように上昇気流が発生しています。2004年はこの海域の水温が例年より1度以上高く上昇気流は加速され、下降気流が作る太平洋高気圧の勢力を強めたと考えられますが、何故広い範囲にわたって海水温度1度高かったのかは分かっていません。
東京は2004年は観測史上最高の39.5度を記録しました。連続真夏日や通算真夏日も更新された地域が続出しました。太平洋高気圧が日本を広く覆ったため晴天が続き、それが陸地や海水に熱を蓄え翌日の気温に影響していったのです。関東地方で猛暑が続いていた時に日本海側の北陸地方では集中豪雨で大きな被害が出ました。この猛暑と水害は密接な関係があり、湿った高気圧が北陸に雨を降らせた後で、山脈を越えて関東地方に吹き降ろしフェーン現象が起きたと説明されています。
2004年に日本へ上陸した台風(追加2005年1月)
前述しましたように2004(平成16)年中に発生した台風は29個でこのうち10個が日本上陸を果たしました。しかも9月の台風21号から23号までの3連続は1997年の台風7-9号以来の7年ぶりでした。最多連続記録は1954年9月の台風12-15号の4個連続があります。



上陸日 上陸地点 気圧(hPa) 強風半径(km)
4号 2004/06/11 高知県室戸市 994 40
6号 2004/06/21 高知県室戸市 965 460
10号 2004/07/31 高知県西部 980 300
11号 2004/08/04 徳島県阿南市 996 240
15号 2004/08/20 青森県津軽半島 980 440
16号 2004/08/30 鹿児島県串木野市 950 480
18号 2004/09/07 長崎県長崎市 945 500
21号 2004/09/29 鹿児島県串木野市 970 260
22号 2004/10/09 静岡県伊豆半島 950 390
23号 2004/10/20 高知県土佐清水市 950 700
注:表中で気圧と強風半径は上陸直前の値

台風の消滅
風は移動中に海面や陸地との摩擦によってエネルギーを失い続けます。北上にともなって海水温が下がるとエネルギー源である水蒸気の供給が減ります。上空には寒気が流れ込みます。台風の目は次第になくなり渦巻状の雲は崩れます。また周辺の温度差のある大気との境に前線が発生します。
台風は「温帯低気圧」と呼ばれるようになり一般に勢力は衰えます。しかし強風の範囲が広がるため、中心から離れた場所でも災害の原因となることがあります。低気圧内部と周辺との温度差が大きいと中心の気圧が下がり逆に発達することもあります。温帯低気圧は重たい大気(寒気)が軽い大気(暖気)の下に入り込む時の位置エネルギーがエネルギー源となり台風とは性質が異なります。

本コラム内の絵は2004/09/29毎日新聞
「ニュースそうだったのか」から借用しています。


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